
5回目の目覚ましアラームが鳴りました。
ヤスミさんは手を伸ばしてパッと止めると、ぶるぶるっと震え、再び布団のなかで丸くなりました。
「今日も冷え込むわねえ」
ヤスミさんは朝に弱いうえに寒がり。でも、ぬくもった布団にくるまって、あんなこと、こんなことを思い返す時間は、なかなかよいものです。
あれは、ヤスミさんが中学生のときのことです。
その日も、ヤスミさんは朝寝坊していました。
「早く起きなさい。学校に遅れるわよ」と、階下から母親が声をかけても、生返事でまどろんでいます。
すると。
「雪だぞー!」
ふいに、父親の声が聞こえてきました。
えっ!初雪?
ヤスミさんは思わずパッと飛び起きて、胸を躍らせながら窓辺へ走り寄りました。

ところが、窓の外はいつもと変わらない冬景色。雪なんてひとかけらも降っていません。
「おかしいなあ」
ヤスミさんが階段を降りていくと、ヤスミさんをのぞく家族全員が食卓についています。
「いま、雪って…」
そう言いかけると、母親が「何を寝ぼけているの!」と叱ります。
父親はむっとした表情で黙々とトーストを口にしています。とてもじゃないけれど、「さっき、雪って言いましたよね?」なんて、尋ねられる雰囲気ではありません。
考えてみたら、真面目できびしい父親が、雪なんて言うはずがないのです。ヤスミさんは首をかしげながら、顔を洗いに洗面所へ向かいました。

あれから何十年もたったいまも、ヤスミさんはあの日のことが不思議でなりません。
「あのとき、たしかに『雪だぞ!』って、聞こえたんだけどなあ」
ヤスミさんはもう、あのときの父親の年齢を超えています。そうして大人になってみると、両親の厳しい姿だけでなく、意外と面白がりで、人間くさいところも見えてくるようになりました。
「よし、今度おとうさんに、あの日のことを覚えているか、きいてみよう」
ヤスミさんはふふっと笑って、布団からえいっと抜け出しました。胸いっぱいに吸い込んだ空気がひんやりとしていて、おいしい。なかなかよい、朝のはじまりです。
