連載「食器棚ものがたり」
【食器棚ものがたり】:暮らしにいちばん身近なアート。器がつくる、食卓の空間(vol.9 菅野有希子さん)

【食器棚ものがたり】:暮らしにいちばん身近なアート。器がつくる、食卓の空間(vol.9 菅野有希子さん)

きょうは、どの器で食べようか。食器棚を覗いて、自分のための器を選ぶのは愉しい時間。

この読み物は、食器棚と器を訪ね歩く連載です。どんな家にもあるけど、ひとつとして同じものはない。そんな食器棚と器と収納を見せてもらいながら、おしゃべりしたことを、小さなコラムにしてお届けします。

第九回は、プロップスタイリスト 菅野有希子(すがのゆきこ )さんのご自宅を訪ねました。

▲どんな器を選び、どんなふうに組み合わせたらよいのか、そんな器迷子さんに向けた本も執筆されています(著書『センスのいい うつわの選び方』)

リノベマンションを住まい兼アトリエに

ヘリンボーンの床に、真鍮の取手をあしらった収納棚、光の通るクラシカルな格子戸。明るく開放感のある空間には、まるで欧風のアパルトマンのような趣きがあります。

こだわりをつめこんだ都内のリノベーションマンションに、住みはじめて8年。

菅野さん:
「最初は新築も考えていたんです。でも、『もっとこんなお部屋にしたい』という理想が積み重なっていたころだったので、リノベーションできる物件に切り替えて探し、この部屋に出会いました。

こだわったのは、フレンチヘリンボーンの床。今思えば、幼少期に住んでいた家もフローリングが斜めに敷かれていたりヨーロッパ系の家具が多かったり。きっとその影響もあって、こうした洋風のテイストが好きになったんだと思います」

部屋を改装しているときには、すでにスタイリングの仕事を始めていたそう。

菅野さん:
「仕事柄自宅で撮影することもあるので、食器にかぎらず、ちょっとした小物が多くて。

だからキッチンには収納をたくさん設けてもらったんです。物が多いので、あえてオープン収納にはせず、扉をつけてもらいました」

扉の向こうには、それぞれの段に器がすっきりと収納されていました。

菅野さん:
「一番手に届く段に、よく使う器を集めるようにしているんです。

あとは、スタイリング用の器を貸し出している食器店などの陳列を参考にして、見やすく、取り出しやすいように。

『どの器を使おうかな』と考えるときって、大抵、サイズと色を見ているなと感じていて。だから、大皿はここ、色柄ものはここ、というふうに、サイズ別・色別に分けて揃えています」


料理よりも、器選びが好きでした

もともとは料理が特別好きなわけでも、得意なわけでもなかったと話す菅野さん。

菅野さん:
「ちょっとした炒め物でも、急いで作ったおかずも、盛る器次第できちんとした美味しそうな料理に見えるんですよね。そんな器の魔法に魅せられて、少しずつ集めはじめました。

昔からインテリア好きだったこともあって、料理自体よりも、献立を考えてそれに合う器を選び、食卓全体をコーディネートすることに、だんだんと楽しさを感じるようになったように思います」

「食卓の空間づくり」という視点から器に惹かれ、そのこだわりは、食卓をつくる家具選びにも表れています。

菅野さん:
「今の住まいに移って部屋が広くなったので、思い切って大きなテーブルを買ったんです。これはSOHOLMで見つけた、古材と組み合わせて作られたダイニングテーブル。

テーブルと器の関係性って結構重要で。つるっとした白い天板のテーブルであれば、モダンで薄手な器が似合うでしょうし、こうした深い色の木目には、ある程度どっしりとした無骨なものの方が合うと感じています。

器を選ぶときにも、このテーブルの上に置いたときにどんなふうに見えるかを想像しながら選ぶようにしています」


「さわって、使って、楽しめる」身近さ

▲小皿や豆皿は、どこに何があるかぱっとわかりやすいように、浅い引き出しに形ごとにまとめて平置き

菅野さん:
「器って、『生活の中で一番身近に使えるアート』だなと思うんです。

たとえば、アート作品を部屋に飾ろうと思うと、少しハードルが高く感じてしまうかもしれません。でも食器だったら、作家さんの作品もヴィンテージも、普段の生活の中で、さわって、使って、楽しめる。

実用性だけではなく、日々の暮らしの中で気軽にアートを楽しめる、そういうところも、器を集めるよろこびのひとつだなと思います」

産地を訪れたり、作家さんのギャラリーへ赴いたり。実際に足を運んで「作り手に会う」ことを大事にされながら、器を集めていらっしゃるのだとか。

菅野さん:
「ギャラリーで作家さんにお会いして、実際にお話をすると、どんな興味や関心をもとに器が作られているかがわかって、楽しいんです。

それってきっと、アーティストやバンドを好きになって追いかけるのと同じ。作家さんに惹かれて、作品を追いかけながら、応援していく、そういう楽しみ方もあるなと思います」


▲スリップウェアには珍しい、焼き締め(釉薬を掛けずに焼き、土の質感をそのまま楽しめる工法)の器

そうお話ししながらテーブルの上に並べて見せてくださった、2組の器。どっしりとした器のたたずまいと、古材の落ち着きが、ふしぎと調和して見えました。

菅野さん:
「最近、ダイナミックな柄のものを使いたくなって挑戦してみた、陶芸家・山田洋次さんの小皿です。

つい先日、焼いた夏野菜をこの器に盛ってみたとき、ふだん使いの陶器とはまた違った味わいが出て、見た目にも新鮮でした。シンプルな器にはない、お皿自体にすでに完成された絵があるからこそ、見え方ががらっと変わったのが面白くて。

そんなふうに、ただ使いやすいだけではなくて、目に飛び込んでくる新鮮さや、ときめきも忘れたくないなと思うんです」


これもお気に入りの一枚、と出してくださった陶芸家・吉田直嗣さんの中深皿。

菅野さん:
「日常使いしやすい大きさで、器の丸みや深さもほどよくて、料理を盛りつけやすい絶妙な形なんです。

ここ、ちょっと見てみてください。ふちがすっきりと薄くて、底まで流れるような端正な形。この器を手掛けられた作家さんは、ろくろが本当にお上手な方で、器の造形がとても美しい。実際に手で持ってみると、そうした形の良さがすごく伝わってきます」


茶道をはじめて広がった「見立て」の世界

一昨年から茶道をはじめた菅野さんの食器棚には、茶道でもちいられる立派な片くち茶碗の姿も。

菅野さん:
「現代の器のありようは、実は茶道の世界やお茶道具からも大きく影響を受けているんです。

茶道を学ぶなかで、暮らしや器についても、これまでとは違った気づきがあると感じています」

▲部屋のあちこちのディスプレイにも、器が活躍していました

「たとえば最近の学びは、『見立て』。

それ用に作られたのではないものを、お茶のお道具に見立てて使うことをいうんです。でもそれは、『ないから代用する』という考え方ではなく、『なにを、どんなものに見立てるか』というアイディアを楽しむもの。

普段の生活に取り入れてみると、たとえば、高台の器を、お香立てに使ってみたり。海や川で拾った石や流木を、箸置きに見立ててみる、なんていうのも素敵。

ちょっとした『ひねり』や『崩し』が洒落感になるという『見立て』の文化が、もしかしたら暮らしのヒントになるかもしれませんよね。『それを、そう使うんだ』という意外性が、食卓にも楽しさや面白みを添えてくれそうです」

素材や色を活かしたり、まったく別のものを見立ててみたり。菅野さんが器で彩る食卓は、自由で、おおらかで、そして豊か。

ついつい無難に使いまわせそうな器ばかりに手を伸ばしてしまうわたしですが、もっと心ときめくままに器を選び、食卓づくりを楽しんでいいんだと、気づかせていただきました。

次回はどんな食器棚に出会えるでしょうか。どうぞお楽しみに。


【写真】木村文平



※記事に登場したアイテムは、全て私物です。過去に購入されたものをご紹介しているので、現在手に入らないものもございます。どうぞご理解、ご了承いただけると幸いです。


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菅野有希子

プロップスタイリスト。会社員を経て2016年独立。雑誌・書籍・WEBメディア等で、食からインテリアまでライフスタイル提案のスタイリングを幅広く手がける。リノベーションしたマンションで一人暮らしするうつわ愛好家。

Instagram:@yukiko130